介護事業を開始して「介護保険事業者」の指定を受ける際には、事業計画書の作成が求められます。
日本は高齢化が進んでおり、今後も高齢化率の上昇が見込まれています。介護サービスの需要も高まることから、需要のある土地を活用して介護事業を開始するメリットは大きいでしょう。
今回は、介護事業を開始する事業者の方へ向けて、介護事業計画者の書き方などを解説していきます。
今後の社会ニーズに対応しつつ、介護事業の開始を検討している事業主の方に役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。
介護の事業計画書とは
介護の事業計画書とは、その名の通り介護事業に関する内容や企業の戦略・ビジョンなどの計画書です。
事業の目的や収益の見込みなどを企業の内外に説明する役割を果たしており、介護事業を始めるにあたって欠かせない書類です。
事業計画をカタチとして残すことで、事業のコンセプトや介護サービスの内容など、事業の目的がブレてしまう事態を防ぐことができます。
健全に介護事業を営むためにも、事業計画書の書き方を把握することは大切です。
なお、介護保険が適用されるサービスを提供する場合、都道府県知事や市町村長から「介護保険事業者」の指定を受けなければなりません。
介護保険事業者の指定を受けるための申請をする際には、事業計画書が必須となります。
どのような介護サービスを提供するのか決定したうえで、事業計画書の作成を通じて具体的なビジネスプランを立てていきましょう。
事業計画書を作成する目的
介護事業を始めるにあたって、事業計画書は非常に重要な役割を果たしています。
以下で、事業計画書を作成する目的を解説していきます。
事業内容を明確にして見通しを立てる
実際に事業計画を書面に落とし込むことは重要です。
事業計画書の作成を通じて、事業内容を明確にして将来の見通しを立てることができ、下記のようなメリットが期待できます。
- 事業主としての考えを整理できる
- 需要のあるサービスを把握できる
- 事業の方向性を再確認できる
- 事業を展開する上での問題点、欠点を客観的分析できる
- 将来性や起こり得るリスクを想定できる
介護保険報酬は、サービスを提供した約2ヵ月後に入金される仕組みです。
事業計画書の作成を通じて資金計画も立てることで、資金ショートを起こすリスクも軽減できるでしょう。
他にも、介護施設の拠点となる立地から利用者の需要予測などを行うことで、安定して収益を上げるためのビジョンを整理できます。
融資を受ける際の信用性を確保する
事業計画書を作成することで、事業の信頼性を高めることができます。
新たに介護サービスを開始する際には、施設のテナント料や人員確保などのコストが発生します。
運転資金を確保するためには、金融機関などに融資を申し込むのが一般的です。金融機関側は、審査の通過可否を判断するに当たって「信用力」「将来性」「計画性」を重視します。
入念な市場分析や自社のビジョン、将来性を分析した事業計画書を提出できれば、信頼が得やすくなるでしょう。
金融機関が最も避けたいのは、融資した資金が返済されなくなってしまう「貸し倒れ」です。
事業のビジョンや将来性、起こりうるリスクと対処法を意識した書き方がされた事業計画書があれば、金融機関側としても安心できます。
事業の方向性を従業員に示す
事業計画書があれば、雇用する従業員に対して事業の方向性を明確に示すことができます。
従業員全員で事業の目的や将来のビジョンを共有できれば、目的を達成しやすくなるでしょう。
また、明確な書き方で求める人材像を示せば、採用担当者がマッチした人材を採用しやすくなるメリットも期待できます。
事業の目的や将来性がイメージできれば、スタッフも安心して働くことができます。従業員が目的意識を持って働くことで、質の高い介護サービスが提供できるようになるでしょう。
介護事業所の運営にあたって立地は重要
社会保障審議会の資料によると、今後ますます65歳以上の高齢者数は増加する見込みです。
出典:社会保障審議会 p12
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000608284.pdf
介護サービスの需要はますます高まっていくことが予想できますが、立地を考えずに介護事業所を建てるのは危険です。
介護事業所の運営にあたって立地は重要である点は認識しておくべきです。
極端な例だと、若者だけが住んでいるエリアに介護事業所を建てても需要は見込めないでしょう。
NHKのニュースによると、実際に物価高で介護施設の3割近くが事業廃止や倒産の可能性に直面しています。
利用者の需要が期待できない場所に施設を構えてしまい、さらにコスト上昇に見舞われると撤退せざるを得ないため注意しましょう。
介護の事業計画書作成を通じて、介護事業を開始しようとしているエリアの強みや特性、年齢層のボリュームを把握することが大切です。
- どのような介護サービスの需要があるのか
- 近隣に競合がどの程度あるのか
- 自治体の介護に関する施策はどうなっているのか
上記のようなポイントを意識しながら、事業計画と親和性が高い土地を探してみてください。
土地選びで失敗しないためには、多くのノウハウを持つプロのサポートを受けながら慎重に進めることが大切です。
介護の事業計画書に記載する項目
続いて、介護の事業計画書にどのような項目を記載するかなど、押さえておくべき書き方のコツを解説していきます。
以下で紹介する項目は必ず事業計画書に含めつつ、必要に応じて必要事項を追記すると良いでしょう。
事業概要・会社概要
事業概要・会社概要の欄では、主に下記の項目を記載します。
- 提供するサービスの具体的な内容
- 利用者のターゲット
- 設立の年月日
- 代表者
- 所在地
融資を受ける際など、事業内容を説明し信頼性をアピールするために必要な項目です。
事業内容やサービスの目的を具体的に記載し、読み手がイメージしやすいよう記載することが大切です。
組織図・執行体制
代表取締役以外にも、取締役や顧問などの役員をはじめとした執行体制も記載しましょう。
事業の意思決定を行うプロセスを示すことで、事業の信頼性をアピールできます。
複数の事業所を設立する場合は、各事業所のサービス提供責任者なども記載しましょう。
企業理念・ビジョン
事業主によって、企業理念や将来のビジョンは異なります。
事業活動を行う上で重要視している価値観や理念、事業の方向性などを明文化することで事業の意思決定がスムーズになります。従業員の意思を共有する際にも、企業理念やビジョンを明文化することは有意義です。
また、社外からの賛同や協力を得るためにも、企業理念やビジョンを策定することは大切です。
- 金融機関の融資担当者に好印象を与える
- 顧客を獲得しやすくなる
- 人材が確保しやすくなる
上記のようなメリットも期待できるでしょう。
市場の分析結果
介護サービスの市場は拡大していますが、市場分析を綿密に行うことも重要です。
市場分析は将来性の判断材料になるため、金融機関の融資担当者に安心感を与え、従業員が心地よく働くためにも重要な項目と言えるでしょう。
- 競合の状況
- エリアのニーズ
- 事業に関連する政策
- 自治体の方針
上記のように、事業を取り巻く環境を分析したうえで事業計画書に織り込むことが大切です。
特に、利用者の定員数やターゲット層など、利用者層のイメージや施設のコンセプトを明確にすることで事業の優位性をアピールできます。
競合他社と差別化している点やオリジナルの付加価値を提供している点があれば、併せて記載しましょう。
立地を含めた具体的な運営戦略
事業計画書には立地を含めた具体的な運営戦略も記載することも大切です。
各エリアで特性や居住している年齢層が異なるため、ターゲットを明確にしたうえで運営戦略を策定しましょう。
立地の強みや特性を分析することでターゲット層を再認識し、提供するサービスを明確にできるメリットも期待できます。
収支計画
収支計画は、その名の通り収入と支出のバランスを示した項目です。
介護保険報酬はサービスを提供してから約2カ月後に入金されるため、実際に入金されるまでにタイムラグがあります。
開業してすぐに利益は得られないため、運転資金を確保する方法や十分な自己資金を用意している旨を記載しましょう。
介護保険報酬が入金されない間も、テナントの賃貸料や人件費費などのコストは発生するため、入念な計画を立てることが大切です。
資金計画
将来の事業拡大などを見据えて、資金計画も立てることが大切です。
介護事業では、下記のように様々なコストが発生します。
- 施設のテナント料
- 施設の維持管理費
- 送迎車の維持費
- 人件費
- 広告代
資金調達方法や必要な自己資金を含めて、しっかりと計画を立てることで資金ショートを起こすリスクを軽減できます。
介護事業計画書に書き方に関する注意点
介護事業計画書の書き方には、いくつか注意するべき点があります。
実際に事業計画書を作成する際には、以下で解説する書き方のポイントを意識してみてください。
許認可・法規制を把握し介護保険の基準をクリアする
介護保険サービスを提供する指定事業者になる場合、法令により定められている運営基準や指定基準をクリアしなければなりません。
介護の指定事業者は「指定居宅介護施設」「指定居宅サービス事業者」「介護保険施設」の3種類に分けられ、各サービスで配置するべき人員や設備の基準が異なります。
各サービスの指定基準は厚生労働省の資料から確認できるため、必ず事前にクリアできているか確認しておきましょう。
施設の安全性や快適性をアピールする
介護施設は、高齢者の方や要介護者の方に対して生活に必要なサービスを提供します。
事業計画書に施設の安全性や快適性を織り込むことで、信頼性が得やすくなるでしょう。
例えば、施設内で食事を提供する際の提供方法、スプリンクラーや通報装置の有無などの情報記載が挙げられます。
近隣に住んでいる要介護者が「安心して利用できそう」と感じれば、施設の収益力を高める要素にもなります。
施設にアピールできる材料があれば、積極的に事業計画書に記載しましょう。
事業開始後のビジョン・事業継続性を具体的に記載する
長期的に介護事業所を運営できる見込みがないと、企業内外の信頼を得られません。
事業開始後のビジョン・事業継続性を具体的に記載して、信頼性を高め従業員が安心して働けるようにすることも大切です。
- 当面の収益予測
- 施設数の拡大予定
- 資金繰りの想定
上記のような情報を細かく記載することを意識してみてください。
リスク要素も勘案する
- 事故や災害などが起きたときの対応
- 資金繰りが苦しくなったときの対処法
- 人材不足に陥ったときの対処法
介護事業を営むうえでは、上記のような様々なリスクが起こりえます。
実際に、予想よりも利用人数が増えないケースや従業員の退職や休職に伴って人員基準をクリアできなくなるのはよくある事態です。
リスクに対応できる体制を整備し、事業計画書に記載することで対外的な信用を得やすくなります。
専門用語を多用しない
介護業界に精通していない人のために、専門用語を使用するのは極力避けましょう。
事業計画書は、金融機関の融資担当者などの介護の専門用語を知らない人でも理解できる書き方を意識することが大切です。
専門用語が多いと、事業内容や意図が正確に伝わらず結果的に損をしてしまう可能性があります。
融資の審査で影響を与える可能性があるため、誰が読んでも理解できるように記載するように心がけましょう。
客観的に伝える
事業計画書は、事業主一人だけで作るのではなく客観的な意見を取り入れながら作成しましょう。
複数人が作成に携わることで、説得力がある魅力的な事業計画書になります。
客観的な視点から事業計画書を作成し、様々なシナリオを想定した事業計画書を作成してください。
介護の事業計画書を作成してスムーズな施設運営を
介護事業所を設立する際には、対外的な信用を得て従業員が安心して働くためにも事業計画書の作成が欠かせません。
こちらの記事で解説した事業計画書の書き方を押さえれば、会社の内外に対しても説得力のある計画書ができあがります。