介護事業の収益は、利用者の負担分と介護報酬で構成されています。
介護サービスを提供してから、実際に事業所へ入金されるまでに2~3カ月程度かかることから、資金繰りが悪化する介護事業者も少なくありません。
資金繰りが悪化すると、人件費や設備の維持費の支払いが困難になり、事業の存続も危ぶまれます。
そのため、介護事業者は資金繰りには細心の注意を払い、必要に応じてスムーズに資金調達できるように備えることが重要です。
こちらの記事では、介護事業の資金繰りが厳しい理由や、資金繰り悪化を防ぐコツなどを解説します。
介護事業の倒産件数
東京商工リサーチの調査によると、2022年の「老人福祉・介護事業」倒産件数は、介護保険制度開始後の2000年以降で最多の143件でした。
介護事業は、介護報酬によるサービス料金が公定価格として決まっている関係から、利用料金の引き上げが難しいという特徴があります。
介護事業の収益力には限界があるうえに、2022年から始まったロシアによるウクライナ進行の影響で光熱費や食材価格などが高騰しています。
価格上昇を転嫁できないまま経営が悪化し、倒産に追い込まれるケースも少なくありません。
さらに、介護職員などの人手不足の影響で事業の継続が困難になるケースもあることから、介護事業を取り巻く環境は深刻と言えるでしょう。
光熱費などのコスト上昇や人材確保の人件費を工面するためにも、介護事業者は常に資金繰りについて考える必要があります。
介護事業に必要な初期費用・運転資金
介護事業を開始するにあたって、必要な初期費用の項目は下記のとおりです。
- 人件費
- テナント賃貸料
- 敷金・礼金
- 改装費
- 事務所内の備品費用
- 車両代
開業する地域や提供するサービスによって必要な初期費用は異なりますが、概ね1000万円程度の初期費用が必要となります。
また、事業開始後に継続して発生するコストとして、下記の項目が挙げられます。
- 家賃
- 人件費
- 水道光熱費
- 車両維持費
- ローン返済費用
- 事務用品費、消耗品費
- 備品のリース代
資金繰りを安定させるためにも、必要となる運転資金を見積もり、資金繰りに余裕を持たせることが欠かせません。
介護事業の資金繰りが厳しくなりやすい理由
介護事業は、資金繰りが厳しくなりやすいため注意が必要です。
綿密な資金計画を練らないと資金繰りが厳しくなり、結果として倒産や廃業に追い込まれてしまいます。
以下で、介護事業の資金繰りが厳しくなりやすい理由を解説します。
法定の人員基準をクリアする必要がある
介護事業を行う際には、介護保険法で定められている人員基準をクリアする必要があります。
人員基準をクリアできていない場合は介護サービスの提供ができないため、人員の確保も常に意識するべき問題と言えるでしょう。
例えば、訪問介護の場合は「介護福祉士、介護職員初任者研修の修了者を常勤換算で2.5以上」という基準が設けられています。
専門資格を持った人材は貴重で、相応の待遇を用意しなければ人員の確保もままなりません。
また、良質な介護サービスを提供するためには高度なスキルを持った人員を確保する必要があるため、介護事業の人件費は高くなりがちです。
人員基準をクリアするための人件費負担が重くなりやすい点は、必ず押さえておくべき課題です。
介護報酬の入金が遅い
介護事業の収入源は1割の利用者の負担分と、9割の介護報酬(介護給付費)です。
(※利用者の収入、資産によって、利用者負担分と介護報酬の割合は変わる場合があります)
利用者の負担分はサービス提供月の翌月に入金されますが、介護報酬が入金されるのはサービス提供月の2~3カ月程度先(サービス提供月の翌々月末に入金)となります。
介護サービスを提供してから、実際に入金されるまでタイムラグが発生することから、その間の資金繰りには細心の注意を払う必要があります。
特に、開業して間もない頃は十分な資金が工面できないケースが多いです。
また、実際に開業して利用者が思うように伸びないと、運転資金が底をついて事業の継続が難しくなります。
収益の不確実性が高い
介護事業は、国の政策や制度改正の影響を受けやすいです。
診療報酬の改定など、国の方針によって収益性が大きく左右されることがあるため、思うように収益を得られない可能性も考慮しなければなりません。
また、介護事業には下記のようなリスクも抱えています。
- 施設内の事故による訴訟、賠償リスク
- 介護報酬の誤請求リスク
- 利用者の利用料、介護負担金 滞納リスク
- 人員基準をクリアできない事による事業縮小、介護報酬減算リスク
収益の不確実性が高いことで、金融機関からの融資を断られてしまう可能性がある点も注意するべきポイントです。
設備投資が必要
介護施設を運営するためには設備投資が必要です。
テナントに必要な改修を施したり車いすでも乗降可能な車両を導入したり、介護事業を行うために必要な設備投資は多くあります。
また、雇用するスタッフが快適に働けるような環境を整備することも、事業主として重要な投資です。
利用者のためにもスタッフのためにも、多額の設備投資が必要になる点は押さえておきましょう。
市場競争が激化している
介護事業は市場競争が激化しています。
介護サービスは、自治体に対して「指定事業者」となるための申請を行い、許可を得ることで提供できます。
今後ますます進展すると見込まれる高齢化を見越して、新たに介護サービスに参入する事業主が増加しました。
競争が激化したことで利用者の確保が困難になり、想定通りの収益を得られずに撤退する介護事業者も多いです。
「少子高齢化」は日本のトレンドである以上、今後も競争が激化する可能性は織り込む必要があるでしょう。
介護事業の資金繰り悪化を防ぐコツ
介護事業の資金繰り悪化を防ぐためにも、綿密な資金計画を練ることが重要です。
さらに、安定して収益を得るための工夫や必要に応じてスムーズに資金調達する手段を確保することで、資金繰りが悪化するリスクを軽減できます。
以下で、介護事業の資金繰り悪化を防ぐコツを解説します。
慎重な立地選び
介護施設を設ける際には、介護サービスの需要がある立地がどうか見定めることが大切です。
高齢者人口が少ないエリアなど、介護サービスの需要が少ないエリアに介護施設を構えても、想定通りの利用者を確保できないでしょう。
また、エリアによって賃料の相場も異なるため、介護サービスの需要だけでなく賃料についても熟考する必要があります。
賃料は継続して発生するコストである以上、立地選びを安易に済ませるのは危険です。
立地選びで悩んでいる介護事業者の方は、土地活用に関する専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
タカオでは、福祉施設の事業立ち上げ支援や土地活用のご提案を行っています。
介護事業の立地選びなどの相談がある際には、タカオにご相談ください。
助成金・補助金の活用
介護事業を始めるときや職場環境の改善を行ったとき、条件を満たせば国や自治体から助成金・補助金を受け取ることができます。
助成金・補助金は、融資と違って返済する必要がないお金なので、資金繰りを楽にしてくれるでしょう。
具体的に、利用できる可能性がある助成金・補助金として挙げられるのは下記のとおりです。
- 介護労働環境向上奨励金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)
- 働き方改革推進支援助成金
- 両立支援等助成金
設備投資や人材確保を支援するための助成金・補助金があります。
助成金・補助金を有効活用して資金繰りにゆとりをもたせることも、常に意識すると良いでしょう。
公的融資の活用
日本政策金融公庫では「新創業融資制度」「ソーシャルビジネス支援資金」を行っています。
日本政策金融公庫では低金利で融資を受けることができるため、支払利息を抑えたい場合は有力な相談先となります。
融資を受けるためには厳しい審査を通過する必要がありますが、担保・保証人不要で申し込むことが可能です。
事業を開始したばかりの事業主や介護などのソーシャルビジネスを行う事業主を対象にしているため、活用を検討すると良いでしょう。
金融機関の融資・ビジネスローンの活用
金融機関やビジネスローン会社から融資を受けることで、資金繰りの悪化を防ぐことができます。
日本政策金融公庫での審査が断られたら、金融機関やビジネスローン会社から融資を受けることを検討しましょう。
銀行や信用金庫などの金融機関は、ビジネスローン会社よりも低金利で融資を受けられるメリットがあります。
一方で、ビジネスローン会社は金融機関よりも審査が易しく、最短即日融資に対応しているなどサービス面が充実している点が強みです。
複数の金融機関・ビジネスローン会社の金利や償還期限などを比較検討したうえで、最も相性がいいサービスを選択しましょう。
ファクタリングサービスの活用
ファクタリングサービスを活用することで、資金繰りを改善する効果が期待できます。
ファクタリングとは、事業者が有している売掛金をファクタリング会社に売却して資金化する方法です。
介護サービスを提供してから、介護報酬が入金されるまでに2~3カ月程度かかりますが、ファクタリングを活用すれば素早く資金化できます。
「介護報酬の入金まで待てない」というケースで、ファクタリングは有用な手段となるでしょう。
なお、ファクタリング会社に介護報酬を売却する際に、10~20%程度の手数料を支払う必要がある点には注意が必要です。
介護事業を運営するなら資金繰りに細心の注意を!
介護事業を運営する際には、多額の初期費用と運転資金が必要となります。
資金計画が甘いと資金繰りが悪化してしまい、事業の継続が困難となってしまうでしょう。
実際に、2022年の「老人福祉・介護事業」倒産件数は2000年以降で最多となっていることから、資金繰りに関しては細心の注意を払うことが大切です。
こちらの記事で紹介した介護事業の資金繰り悪化を防ぐコツを意識すれば、資金繰りが悪化するリスクを軽減できます。
また、十分な利用者を確保するためには介護施設の立地選びも重要な要素となります。
タカオには土地活用や土地選びの専門家が揃っているため、介護施設の立地選びで悩んでいる方は相談してみてはいかがでしょうか。