介護施設のなかでも、規模や収益の大きい老人ホーム。しかし、実際は儲かるのか、メリット・デメリットは何があるのか分からないことが多いでしょう。
この記事では、老人ホームのなかでも住宅型有料老人ホームについて、経営をしていくうえでのポイントを解説していきます。
この記事を読めば、住宅型有料老人ホームの特性や開業する準備、経営するポイントを抑えられます。大切なポイントを抑えていき、健全な住宅型有料老人ホームの経営を進めましょう。
住宅型有料老人ホームとは
有料老人ホームには介護付き有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームの3種類があります。
そのなかでも住宅型有料老人ホームは、食事や洗濯など普段の生活におけるサポートを受けられるのが特徴となります。また、入居者が必要とする生活援助と外部の介護サービスを自由に組み合わせることができるので、一人ひとりに合ったペースで生活できる環境です。
老人ホーム経営の現状と今後
老人ホームの経営の現状と今後について解説します。
経営においては、以下の2点が大きな問題となっているのです。
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現在、介護業界では倒産企業が増加しています。老人福祉・介護事業において2022年には倒産件数が143件となりました。この倒産件数は前年比76%増加しており、過去最多です。
出典:株式会社東京商工リサーチ
上記の倒産数が増加した要因のひとつは深刻な人手不足です。介護業界の給与水準が低いこと、業務内容がハードであることなどの理由から介護職を目指す人材が減少しています。また、限られた介護人材の獲得競争も人手不足の要因と言えるのです。
住宅型有料老人ホームを経営した際の収支
住宅型有料老人ホームを経営した際の収支と年収のシミュレーションを交えて以下に解説します。
介護施設の収入
住宅型有料老人ホームでの収入は以下のような項目があります。
収入項目 | 目安金額 |
一時入居金 | 0~数万円 |
家賃 | 5~20万円 |
食費 | 4~10万円 |
管理費 | 3~10万円 |
介護報酬 | ※介護保険収入がある場合 |
他サービス費 | ※介護保険外のサービスを行う場合 |
上記の一時入居金は、入居する際に入居者から支払われる入居時の収入です。一時入居金の金額設定は施設によってさまざまですが、多いところでは数百万円となるのである程度の収入源となるでしょう。その他の家賃や食費は介護施設の月額利用料として支払われる毎月の収入です。
出典:高齢者向け住まい及び事業者の運営実態に関する研究 P29
介護施設の支出
一方で、介護施設を運営する際の主な支出は以下の項目です。
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経営を維持していくためには人件費や施設維持費等を含めた管理費が発生します。また、職員の人手不足が生じている場合は、求人にかける費用も逃れられません。十分な従業員を抱えることは、求人費の削減にも繋がるのです。
年収のシミュレーション
老人ホームを経営した際の例を以下の条件でシミュレーションしていきます。
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1ヶ月の収入は入居者×月額利用料となります。また、今回は一時入居金は0円と想定して行います。
1ヶ月あたりの収入は40人×20万円=800万円 となり、管理費は収入の約20%と考えるので800万円×0.2=160万円 が管理費です。したがって収入の800万円から管理費の160万円と建物自体の賃料を差し引いた金額が手取りとなり、ここへ介護報酬やサービス料が追加されるので、さらに増収となります。
住宅型有料型老人ホーム経営のメリット
住宅型有料老人ホームを経営するうえでのメリットは「大きな収益が見込める」ことと「将来性と需要の増加」です。
大きな収益が見込める
有料老人ホームの経営のメリットは大きな利益を生み出せることです。賃貸マンション経営と異なり、限度世帯数が多いことがあげられます。施設の利用者をより増やすことができれば、利益の拡大が期待できるでしょう。また、大きな土地を利用することができればより施設利用者を増やすことができ、収益に繋がります。
将来性と需要の増加
日本は現在少子高齢化がますます進み、今後高齢者の介護需要は増える予想となっています。現状介護業界での課題も多々ありますが、需要がなくなる見込みは少なく将来性が期待できるでしょう。
また、住宅型有料老人ホームは他の有料老人ホームよりも受け入れられる介護レベルの幅が大きいため、多くの入居者が見込まれます。
住宅型有料老人ホーム経営のデメリット
住宅型有料老人ホームを経営するうえでのデメリットは「初期費用が高額である」ことと「その他用途への転用が難しい」ことです。
初期費用が高額である
介護施設を経営するにあたっては、まとまった初期投資が必要です。初期費用が高額なため、入居率は施設経営に大きく影響します。
近年はフリーレントを含んだ施設や建物の賃貸契約が増加の傾向です。フリーレント期間中は支出となる賃料が発生しないため、期間中に入居率を上げることが重要となります。
入居率を上げる為にも、開業前に充分な需要の調査や事業計画を立てることが大事です。
その他用途への転用が難しい
老人ホームの経営がうまくいかなくなった場合、他の方法にて転用する場合があります。しかしながら住宅型有料老人ホームは、建物が通常と異なり別用途への転用が難しいのが現状です。
万が一、老人ホームの経営が黒字にならなかったときは、別の経営者に売却するオーナーチェンジという方法を取ることが考えられるでしょう。
設立時の必要な基準
住宅型有料老人ホーム設立時に必要な基準について以下3つの項目にて解説します。
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必要な人員
住宅型有料老人ホームの人員基準は特に設けられていません。住宅型有料老人ホームでは施設ごとの必要数に応じて人員配置をすればよいとされています。
そこで一般的に必要とされている人員配置を紹介します。
必要な人員 | 業務概要 |
施設長(管理者) | 施設の管理責任者 |
生活相談員 | 利用者と家族の相談役 |
介護職員 | 日常生活の援助 |
看護職員 | 利用者の健康管理 |
その他、機能訓練指導員や栄養士・調理師なども必要です。
必要な設備
住宅型有料老人ホームには設備に対する法的な決まりがありません。しかし高齢者の健康と安全を守るためには、以下のような設備が必要です。
- 食堂
- 浴室、脱衣所
- 洗面所
- 洗濯設備
- トイレ
- 汚物処理室
- 機能訓練室
- 医務室
- 職員室、事務室
- 談話室
- ナースコールなどの緊急通報装置
- スプリンクラー
利用者の健康と安全を守り、快適なサービスを提供できるように設備を整えましょう。
運営をするための基準
運営のための基準は以下の8つが定められています。
管理規程の制定 | 入居者の定員、費用に関して、サービス内容等を含んだルールを決める必要がある。 |
名簿の整理 | 入居者、入居者の身元引受人等の名簿を記載した名簿を管理し、緊急時に対応できるようにしておく。 |
帳簿の管理 | 事業所の修繕、改修の実施状況や入居者へのサービス内容、事業所での事象についてを帳簿へ明記する。 |
個人情報の取り扱い | 個人情報保護法における「個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を遵守すること、と定められている。 |
緊急時の対応 | 事故、災害、急病については実際に起きたことを想定して、具体的な計画を立てることが規定されている。 |
医療機関などとの連携 | 健康診断や健康相談などを目的とし、医療機関との連携と診断の内容を取り決めておくこととされている。 |
介護事業サービスとの関係 | 近隣にある介護事業所への情報提供や特定の事業者利用への誘導をしないなど明記されている。 |
運営懇談会等の設置 | 運営懇談会とは「事業の透明化」の観点から入居者、入居者の家族、第三者の学識経験者、地域の民生委員を交えて行う報告会を指す。報告会では、入居者、サービス状況、収支報告等が内容となっている。 |
出典:有料老人ホームの設置運営標準指導について P17
老人ホーム経営を成功させるためのポイント
老人ホーム経営を成功させるためのポイントについて以下3項目で解説します。
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ICT技術を導入の業務効率化
ICT技術を導入して業務の効率化を図る事業所が増えています。
導入例としては、チャットツールの活用です。従来の連絡手段は電話のみでした。それにより、利用者の情報が他の職員へ正確に伝わっているのかの不安や、責任者の業務にスタッフからの電話対応時間が多く割かれてしまいます。チャットを活用して、文面でやり取りできることで情報が正確に伝わり、サービス責任者とスタッフのストレスが減ったという効果がありました。
ICT技術導入による業務効率化は職員スタッフの負荷の軽減だけでなく、人手不足の解消にも繋がるのです。
人材の確保、労働環境の整備
人手不足の介護業界にて、人材を確保するには労働環境の整備や人材育成が重要となります。
労働環境を整えることは、施設経営の成功に重要なポイントとなります。介護業界では人材不足・流出が問題となり、人材確保・定着させるための環境整備は必須です。福利厚生の充実や賃金・業務のバランスの調整、社内コミュニケーションをこまめに取り信頼関係の構築、社員の意見の抽出などさまざまな観点から社内整備をしていきましょう。
人材育成を充実させるには、社内教育制度の見直しと優秀な人材の確保が必要になります。社内教育制度を見直し、研修やOJTを通して社員の技術力、モチベーションを向上させましょう。その結果施設のサービスが向上し、集客も増え利益の向上に繋がります。
定期的なイベントを企画
福祉施設を経営するうえで利益を出すことは大事ですが、利用者に楽しく利用してもらうことも大切です。
楽しく利用してもらうためにレクリエーションなどを企画しましょう。レクリエーションがあることが利用者の楽しみとなれば、精神的にも身体的にもいい効果が表れます。レクリエーションの種類によっては認知症予防やリハビリ効果があるものもあるので、定期的な企画を検討しましょう。施設運営が良好であれば口コミでの入居にも繋がります。
住宅型有料老人ホームの特性を理解し、安定した施設経営をしよう
住宅型有料老人ホームを経営するうえでの、メリットデメリットなどの特性について解説しました。
住宅型有料老人ホームは他の有料老人ホームより、さまざまな介護サービスの組合せができるので、ポイントを抑えることができれば大きな収益に繋がります。
住宅型有料老人ホームの経営を始める際は、介護事業へのノウハウを持つプロへぜひご相談ください。