介護施設の開業を検討するにも、介護業界の現状や将来性のような不安要素は多いでしょう。
高齢化社会にも関わらず、介護施設の経営が上手くいかずに撤退・倒産してしまう施設が多いのが現実です。
この記事では、介護施設が撤退・倒産してしまう原因や特徴、経営を成功させるためのポイントを解説します。また、万が一倒産してしまった場合にも備え、その後の流れについても手順に沿って解説します。
この記事を読めば、介護施設の経営が失敗しないための方法や、経営が成功するためのポイントを掴むことができ、安定的な介護施設の運営につながるでしょう。
介護業界倒産の現状について
現在、介護業界では倒産企業が増加しています。老人福祉・介護事業において2022年には倒産件数が143件となりました。この倒産件数は前年比76%増加しており、過去最多です。
出典:株式会社東京商工リサーチ
少子高齢化社会に伴って需要が増加していると見られますが、入居者の獲得競争が激化することによる倒産企業は増加しているのが現状です。
また、近年ではコロナウイルス感染症まん延による売り上げの減少、感染対策のための経費増や水道光熱費の上昇、物価高などこれまでとは異なる複合的な要因によって倒産に至るケースもあります。
介護業界の将来性について
令和3年版高齢者白書より、現在日本の高齢者が占める割合は28.8%と公表されました。令和18年には33.3%、令和47年には38.4%となる見込みで、日本の少子高齢化社会は今後も進む傾向です。
高齢者が占める割合が増加するということは福祉施設の需要が増えることを表します。高齢者の割合が増加し、需要が伸びるため介護業界の将来性はありますが、高齢者の需要が増えすぎてしまう懸念があります。
需要が大きすぎると、介護士不足などの問題が発生してしまうので、課題解消のために業界全体での協力が不可欠です。
倒産する介護施設の原因
介護施設が倒産する原因について以下6つの項目について解説します。
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それぞれの原因について解説していきます。
人材不足
公益財団法人介護労働安定センターが実施した令和元年度介護労働実態調査では65.3%の事業所が人手不足を感じていると回答しました。
特に訪問介護では職員の人材不足が深刻化しており、81.2%が人材不足を感じています。
さらに介護業界に人材不足が起こる要因として、介護職は身体的負担や精神的負担が多いことから「きつい」「辛い」といったイメージをする方が多く、介護業界のハードルの高さを感じている方が多いようです。
出典:令和元年度[介護労働実態調査 P8
設備不足
倒産してしまう施設の設備は修繕が少なく古い設備であったり、施設の数が十分でないことが多いです。設備が新しいということは見た目が綺麗なのはもちろんですが、一番は利用者が安全に施設を使用できるどうかになります。
利益率が低い
一般のサービス業では、スタッフの質・設備の充実性といった付加価値によって、値上げができます。しかし、介護サービスは介護報酬のなかで価格が定められているため、値上げの余地がありません。そのため、十分な利益をあげられずに倒産してしまいます。
介護報酬の改定
介護報酬の改定による報酬増減は事業者の収入に大きく影響します。この介護報酬は3年に1度改定され、報酬が削減された場合には大きな打撃となります。上記の利益率の低さは、この介護報酬の改定も理由の一つとなっているのです。
近年では、2015年の改定により介護報酬がマイナス2.27%となり倒産に追い込まれた企業は少なくありません。大きな規模の施設ならば他の収入源によってカバーできますが、小規模な施設だと介護報酬の改定が経営に響く収入減となってしまうのです。
競合の増加
介護需要が増すなかで介護事業所が増えて競合してしまうことも、倒産する介護施設が増えている原因です。地域によっては介護需要よりも供給する施設の方が多くなってしまいバランスが合わないケースもあります。
また、介護業界では慢性的に人材不足が続いており、事業者数は増えているのに比べて現場の人材不足は解消されていません。施設側も求人に力を入れていますが、売り手市場になっているため採用の競争が激しく、施設同士で人材の取り合いが続いています。
介護職員処遇改善加算を利用していない
介護職員処遇改善加算とは介護職員の賃金改善を目的としたものです。
職員のキャリアアップの仕組み作りや、職場改善を行った事業所へ介護職員の給与アップ分が支給されます。加算制度は届け出を行えば給与加算されるのですが、全ての事業所で届け出がされているわけではありません。理由としては、届け出の事務手続きが煩雑なためできていないことがあげられます。
介護施設が倒産する前兆・特徴
介護施設が倒産してしまう前兆や特徴について以下に解説します。
施設の人員、設備の管理不足
異業種からの参入など複数事業を掛け持ちする場合に撤退・倒産の傾向があります。原因としては他の掛け持ちによる施設の管理不足や人員の管理不足によって、運営が継続できなくなり、撤退を余儀なくされるのです。
ずさんな経営
事業者の経営計画が甘く、ずさんな経営を行ったことで経営の存続が出来なくなったケースがあります。安易な事業拡大を狙い施設を増やしたものの、入居者が集まらず、さらに従業員の確保もままならなくなり結果として資金繰りが悪化し倒産に至ってしまいます。
介護施設が倒産したあとの手続き
介護施設が倒産した後の手続きについて以下の手順に沿って解説します。
- 所轄官庁へ相談
廃業を考える際は、まず所轄官庁へ相談します。所轄官庁にて廃止までの流れや提出書類について説明を受けます。廃業する日程を確定し、所轄官庁へ廃業に関する届を提出するのです。 - 関係機関へ報告
廃業を行ううえで、介護事業所の関係機関への報告が必要になります。所轄官庁への届出に記載する利用者の調整は、近隣の介護事業所へ受け入れの協力を申し出ましょう。 - 利用者・利用者家族への報告
ご利用者・ご家族へ廃止することを報告します。介護事業所の廃止手続きでは、ご利用者が引き続き同様の介護サービスを利用できるように、近隣の介護事業所等と連携して利用の調整を行うことが必要不可欠です。 - 利用者の調整
廃止の日程が決まったら従業員へ報告します。他に事業を行っていない場合には、事業所の廃止に合わせて従業員が就職・転職活動する期間が必要です。廃止予定日までの勤務の確認や賃金の支払いについて説明する必要もあります。 - 所轄官庁への書類提出
廃業日までの1ヵ月前までに、廃止・休止の届出書を提出する必要があります。 - 従業員への対応
廃止の日程が決まったら従業員へ報告します。他に事業を行っていない場合には、事業所の廃止に合わせて従業員が就職・転職活動する期間が必要です。廃止予定日までの勤務の確認や賃金の支払いについて説明する必要もあります。 - 施設の閉鎖
廃業の手続きを進め、事業所の廃止が完了した後にも国保連への請求、従業員、取引先への支払いなどの業務が続きます。そして不動産、備品等の処分へ進み閉鎖となります。
介護施設が倒産した際に利用者へ与える影響
介護施設が倒産し事業を閉鎖する際、自治体への届け出や利用者の受け入れ先を決めなければなりません。利用者の次の受け入れ先が決まらない事態が発生してしまうと、サービスを必要とした人の日常生活が困難になってしまいます。
介護施設が倒産しないためのポイント
介護施設が倒産しないためのポイントを以下の項目で解説します。
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それぞれのポイントについて解説していきます。
ニーズに合うサービスの提供
サービスを提供する際、利用者の目線・立場にて考えることが大切です。利用者の立場になることで、求められるサービスの提供によって満足度が上がり、施設経営の利益にも繋がります。利用者に合うものを把握するためにも、アンケートを取り入れるなどしていきましょう。
助成金を活用する
介護業界では、国・自治体など多くの助成金があるため、上手に活用していくことが大切です。
例えば東京都では、業務効率化のためにデジタル機器やネットワーク機器を購入し「デジタル機器導入促進支援事業」として最大で260万円の補助を受けることができます。
助成金はさまざまありますが、より細かい内容や申請方法については以下で解説しています。
働く環境を整える
労働環境を整えることは、施設経営の成功に重要なポイントとなります。
介護業界では人材不足・流出が問題となり、人材確保・定着させるための環境整備は必須です。福利厚生の充実や賃金・業務のバランスの調整、社内コミュニケーションをこまめに取り信頼関係の構築、社員の意見の抽出などさまざまな観点から社内整備をしていきましょう。
倒産しないためのポイントを理解して、無理のない施設経営をしよう
介護施設が倒産してしまう原因や、前兆となる特徴について解説してきました。
課題も多く倒産してしまう介護施設が多い現状ですが、倒産しないためのポイントや適切な解決策を立てることができれば安定的な経営を行っていけます。
介護施設運営を検討し、事業立ち上げをされたい方は、介護福祉事業のプロへぜひご相談ください。