介護サービスを提供する事業所では厚生労働省が定める「人員配置基準」に則ったスタッフの配置が必要です。
利用者へ良質なサービス提供を行うためにも、適切な人員配置を行うことは重要ですが「基準が良く分からない…」「計算方法が複雑で難しい…」と感じる方は多いのではないでしょうか。
この記事では「人員配置基準」と「計算方法」を分かりやすく解説します。
「人員配置基準」の考え方、介護施設別の人員配置、さらに基準を満たさない場合のリスクについても解説しますので、ぜひご参照ください。
介護施設の人員配置基準とは?
介護サービスを提供する事業所(以下「介護施設」)を運営するためには、どのような人材が必要でしょうか。厚生労働省の規定では、主に以下の職種を配置することが定められています。
「管理者・施設長」
「看護職員・介護職員」
「生活相談員」
「介護支援専門員」
他に、介護サービスの種類により「医師」「機能訓練指導員」「栄養士」「栄養管理士」など様々な分野の専門家を配置することが必要です。
各介護サービスごとに必要な職種は、下記一覧をご参照ください。
法的な根拠
介護施設を運営するために必要な人員配置基準は介護保険法(第88条)で定められており、介護職員・看護職員の人数については「常勤換算方法」を用いて計算します。
「介護職員及び看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が三又はその端数を増すごとに一以上とすること」
引用:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省)第2条3-イ
ここでは、入所者「3名」に対して介護職員・看護職員が「1名分」必要という基準を押さえておきましょう。
「常勤換算方法」が必要な理由は?
先ほど、入所者「3名」に対して介護職員・看護職員が「1名分」必要、と説明しました。
「1名」ではなく「1名分」と表記していたのは、常勤換算方法においては単純な職員数ではなく「常勤で働く介護職員・看護職員「1名分」の労働時間」を基準として何名分配置されているか計算するためです。
例えば、常勤(週5日、フルタイム勤務)の職員と、パート(週2日、短時間勤務)の職員をそれぞれ「1名」としてカウントしてはいけません、ということです。
人員配置基準における「常勤換算方法」の計算式を解説
介護施設のサービスを担う介護職員・看護職員の人数をカウントする際に使用する「常勤換算方法」の計算式を解説します。
「常勤で働く介護職員・看護職員「1名分」の労働時間」を基準として計算する、という視点で考えてみましょう。
常勤換算方法とは?
常勤換算方法について、厚生労働省では以下のように定義しています。
「事業所の一週間の従事者(常勤及び非常勤)の勤務延べ時間を、当該事業所の常
勤の従事者が勤務すべき時間数で除すことにより、当該事業所の従業者の員数を常
勤の従業者の員数に換算する方法をいう。」
「常勤(週5日、フルタイム勤務)」職員の1週間の労働時間が40時間(1日8時間×5日間)の場合は40時間を基準として計算します。
出典:共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.33
このように「常勤職員の1週間の労働時間」を基に人数をカウントする計算方法が「常勤換算方法」です。
常勤換算方法の計算式
それでは具体的に認知症対応型グループホームを例として説明します。
【条件】
・利用者:9人
・介護従事者:4名(常勤換算)
※認知症対応型グループホームでは、利用者1名に対して介護従事者1名の配置が必要(日中)。
・常勤:2名(40時間×2名=80時間)
・非常勤:4名(20時間×4名=80時間)
参考:認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)厚生労働省
この例では常勤(2名)、非常勤(4名)の合計6名が勤務していますが、非常勤(4名)は常勤の半分の労働時間のため、常勤換算では「2名分」でカウントされます。
尚、常勤換算をした結果、小数点が発生した場合は小数点第2位は切り捨てます。
(例)「7.575」→「7.5」。
画像:下記資料を元に筆者が作成
常勤換算方法の3つの注意点
続いて、常勤換算方法を行う際の注意点について「常勤・非常勤・専従・兼務」「有給休暇、出張」「育児休暇・介護休暇」の3つに分けて説明します。
常勤・非常勤・専従・兼務
介護サービスでは「常勤/非常勤」「専従/兼務」の違いを理解することが大切です。こちらでは、4種類の勤務形態の違いについて解説していきます。
画像:常勤・非常勤・専従・兼務の考え方(名古屋市)を元に筆者が作成
介護の勤務形態は、上記4種類に分類されます。常勤換算の計算の基準となる「常勤」は専従か兼務かに係らず、労働時間で判断される点を覚えておきましょう。
また、雇用形態がパートやアルバイトであっても、就業規則上の所定労働時間が週40時間の事業所で、週40時間勤務の雇用契約で働いている場合には「常勤」となります。つまり「正社員=常勤」とは限らず、賃金形態が月給か時給かなども関係ありません。
※尚、1週間の労働時間が32時間以下に定められている事業所では、常勤の所定労働時間を32時間で計算します。
・常勤職員:就業規則などに定められた事業所の常勤職員の所定労働時間と、雇用契約などで定めた職員の労働時間が一致している職員
・非常勤職員:常勤の職員より短い労働時間で働いている職員
・専従職員:労働時間中、一つの「職種」だけに配置されている職員
・兼務職員:労働時間中、複数の職種に配置されている職員
有給休暇、出張
有給休暇や出張の取り扱いは、該当の労働者が「常勤で働いているかどうか」で異なります。
常勤で働いている場合、有給休暇や出張は労働時間に含まれますが、非常勤の場合は、含まれません。
つまり、非常勤の方が有給休暇を取得した場合、働けなかった時間はマイナスになるということです。
(例)非常勤の職員が1週間で20時間分の有給を取得した場合
※常勤の場合でも、有給休暇や出張の期間が暦月で1カ月を超えた場合は非常勤と同様の扱いになります。
画像:障害福祉サービス等指定基準・報酬関係Q&A(WAMNET)を元に筆者が作成
育児休暇、介護休暇
育休については「有給休暇、出張」と同様の取り扱いです。
しかしながら、介護現場において良質で安心できる介護サービスを提供するために、育児や介護を行う職員の離職防止、定着促進を図る観点から人員配置基準の見直しが行われています。
具体的には、令和3年度介護報酬改定時において、以下2点の特例が設けられました。
①職員が育児・介護休業法に基づく短時間勤務等を行う場合には、週30時間以上の勤務で「常勤」として取り扱うことが可能。
②「常勤」職員が育児休業、介護休業を取得した場合、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算することで、人員配置基準を満たすことを認める。
出典:人員配置基準における両立支援への配慮(厚生労働省)p.27~p.29
施設の管理者としては、このような特例を活用することにより、職員の離職防止、定着促進を図ることも重要になります。
【介護施設別】人員配置基準について
介護施設ごとに人員配置基準は異なります。こちらでは「特別養護老人ホーム」「有料老人ホーム」「認知症対応型グループホーム」の運営に必要な人員配置基準について確認していきましょう。
特別養護老人ホーム
在宅での生活が困難になった要介護3以上(特例として要介護1、要介護2も可)の高齢者が入居対象。有料老人ホームに比べると低価格で利用できるのがメリットの一つです。
画像:特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(厚生労働省)を元に筆者が作成
有料老人ホーム
高齢者が入居し、食事や家事援助、介護や健康管理などのサービスの提供を受ける施設。「介護付」「住宅型」「健康型」の3タイプに分かれ、介護度や目的によって入居先を選ぶことができます。
画像:特定施設入居者生活介護(厚生労働省)を元に筆者が作成
グループホーム
認知症高齢者の介護を専門とした小規模入所施設です。「認知症対応型老人共同生活援助施設」とも呼ばれ、介護保険の「地域密着型サービス」に分類されています。
画像:認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)社会保障審議会を元に筆者が作成
人員基準を満たせていないとどうなる?
人員配置基準を下回っているのにもかかわらず、事業を続けている場合「人員基準違反」として行政処分の対象になります。
事業所の指定取り消しなどの行政処分を受けた場合、利用者・職員の双方に不利益が発生します。
次に具体的にどのような罰則があるか、確認していきましょう。
人員基準違反
人員配置基準を満たしていないことを隠し、虚偽の報告を行った場合、以下のような行政処分が行われる可能性があります。
・利用者の新規受け入れ停止
・指定取り消し
・指定の効力停止(全部停止、一部停止)
利用者の新規受け入れが停止となった場合、利用者の新規募集が行えなくなる処分です。
また、介護施設は都道府県知事から指定を受けて介護事業を行っているため、指定取り消し、指定の効力停止(全部停止、一部停止)を受けると営業活動の全部、または一部が行えなくなります。
尚、厚生労働省の統計(令和元年度)によると、指定取り消し処分を受けた事業所のうち、最も多い処分事由は「不正請求(28.7%)」ですが、次に「虚偽報告(15.3%)」「虚偽申請(12.1%)」と続いています。
「人員基準違反(4.5%)」は全体の5%未満と比較的少ない事由ではありますが、人員が不足している状態にもかかわらず、充足しているように報告をした場合「虚偽報告」となります。
出典:全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(厚生労働省)P.24
人員基準欠如減算
利用者数が利用定員を超える、つまり職員数が人員配置基準を下回った場合には、基本報酬の支給額が70%に減額されます。基本報酬(収入)が減ることにより、介護施設の経営に影響を与えます。
人員配置を行う際の注意点
介護施設の収入は介護保険法に定められている介護報酬として、国から支払われます。そのため、法令で定められている配置基準を満たせない場合には、上記のような行政処分の対応になるわけです。
それでは、どのような点に注意が必要か確認していきましょう。
余裕を持った人員配置と就業環境の改善
安定した施設運営を行うためには、急な職員の退職、休職に備えたゆとりある人員配置計画を策定することが重要です。
余裕を持った人員配置
介護施設は、入所者(利用者)がいるため、職員の退職、休職による人員不足が起きた場合も業務量を減らすことはできません。
結果として、出勤している職員の負担が増え、そのような状況が続くことにより職員の離職に繋がることもありえます。代替の職員を募集しても、採用までには時間が掛かります。
安定した介護サービスの提供と、職員に負担を掛けない職場環境を作るためにも、ゆとりのある人員配置が大切になります。
就業環境の改善
他方、職員が働きやすい就業環境(報酬の改善、業務の効率化、キャリアアップ支援など)を整えることにより、定着率を上げることにも目を向けましょう。
優秀な人材がやりがいをもって「働き続けたい」と感じる職場環境を作る工夫をすることにより、定着率が向上し雇用が安定します。雇用が安定することで職員の習熟度が上がり、利用者へのサービスの質の向上にも繋がる、という好循環が生まれます。
違反した場合、罰則を受けるケースもあることを念頭に
平成12年度~令和元年度までの20年間で、合計2,748の施設、事業所が指定取り消し、指定効力の停止処分を受けており、平均すると毎年、全国で100を超える事業所が対象となっていることが分かります。
先に述べたように、人員欠如違反をきっかけとして、虚偽報告や虚偽申請を行うことにより、指定取り消しなどの重い行政処分に繋がることがあることを念頭に置いた上で、施設運営を行いましょう。
出典:全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(厚生労働省)P.21
まとめ
今回は介護施設の人員配置基準に関する基礎知識や「常勤換算方式」の計算式について解説しました。
良質で利用者が安心できる介護サービスの提供を行うためには、国が定めた基準を満たす職員の配置が必要です。そのため、介護施設の管理者は、人員配置基準の正確な理解が求められます。
介護施設の運営に必要な人員を確保し、常勤・非常勤・専従・兼務の区分を正しく把握することによって、減算や行政指導の対象とならないようにリスク管理を行いましょう。
タカオでは、介護福祉施設や障害福祉施設全ての工程で様々なサポートをさせていただきます。
まずは、お気軽にご相談ください。