「グループホーム」と聞くと「認知症の高齢者が利用する集合住宅」というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
実はグループホームには「認知症高齢者グループホーム」と「障害者グループホーム」の2種類があります。
今回は近年、需要が高まってきている「障害者グループホーム」を経営する際の課題とその解決策について解説します。
「障害者グループホーム」の事業所数や利用者数の推移、利用者の定義など基礎的な情報もまとめていますので、合わせてご確認ください。
障害者グループホームとは?
障害者グループホームを一言で言うと「障害者向けの支援付きシェアハウス」です。
障害者福祉サービスの一つに位置づけられており、障害者総合支援法では「共同生活援助」という名称で呼ばれています。
障害者グループホーム事業所数の推移
2023年に公表された厚生労働省の資料(障害福祉サービス等事業所・障害児通所支援等事業所の状況 P.1)によると、事業所数は全国で1万2,281ヵ所(前年比11.1%増)となっており、2018年(8,231ヵ所)と比べて約1.5倍と増加傾向にあります。
障害者グループホーム利用者数の推移
利用者数については国保連(国民健康保険団体連合会)のデータによると、2008年〜2023年の15年間で約3.5倍(4万8,394人→17万2,901人)となっており、右肩上がりに増加を続けていることが分かります(下図参照)。
令和5年4月国保連データ‗共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.1から抜粋
障害者グループホームは主に3種類
障害者グループホームは提供するサービスにより、主に3つの類型があります。
それぞれの特徴を理解し、どの類型を選択するかご検討ください。
※他にも一人暮らしに近い「サテライト型」や「地域移行支援型ホーム」「通過型」などの類型がありますが、今回の記事では割愛します。
・介護サービス包括型
・日中活動サービス支援型
・外部サービス利用型
それぞれの特徴を一覧表にまとめましたので、みていきましょう。
介護サービス包括型が全体の8割を超えており、最も多い類型です。
また、障害者グループホームは夜間のサービス提供が主になりますが、日中サービス支援型は昼間もサービス提供を行うため、24時間体制での運営になります。
画像:厚生労働省の資料を元に筆者が作成
令和5年4月国保連データ‗共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.1
サービス類型ごとの利用者の状況
サービス類型ごとの利用者の状況ごとに見てみると、以下のような特徴があります。
画像:令和5年4月国保連データ‗共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.1
障害者種別
・介護サービス包括型は知的障害者が多く(約6割)、外部サービス利用型は精神障害者が多い(約6割)。
・日中サービス支援型は他類型より身体障害者の割合が高い(介護サービス包括型の約4倍)。
支援区分別
・外部サービス利用型は「区分なし」が多く(約6割)、日中サービス支援型は「区分4以上」が多い(約8割)。
〈参考〉障害支援区分に該当した場合「区分1~区分6」まで6段階に設定されており、数字が大きくなるほど重度と判定されています。
出典:障害者総合支援法における「障害支援区分」の概要 P.1
年齢別
・類型別の年齢に大きな偏りは無い。
・すべての類型で「50歳以上〜60歳未満」の層が最も多い(2割強)。
障害者グループホームの利用者
障害者グループホームは「原則18歳以上の障害者」が利用できます。具体的な条件を確認していきましょう。
対象年齢
障害者グループホームは18歳以上から利用可能です。
また、児童相談所長が必要と認めた場合には、15歳以上の児童も利用できます。
身体障害者は「65歳未満の方」または「65歳に達する日の前日までに障害福祉サービス若しくはこれに準ずるものを利用したことがある方」という条件があるため注意が必要です。
障害者総合支援法の定義
障害者総合支援法では、以下のように定義されています。
・地域において自立した日常生活を営む上で、相談、入浴、排泄又は食事の介護その他日常生活上の援助を必要とする※障害者。
※障害者:身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、難病患者
参考:令和5年4月国保連データ‗共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.3
具体的な利用者像
障害者グループホームはどのような方に利用されている施設なのか、具体的に確認していきます。
①単身での生活は不安があるため、一定の支援を受けながら地域の中で暮らしたい方
②一定の介護が必要であるが、施設ではなく地域の中で暮らしたい方
③施設を退所して地域生活へ移行したいが、いきなりの単身生活には不安がある方
グループホーム経営の落とし穴はある?
ここからは障害者グループホーム経営を含めた介護事業の現状についてみていきましょう。
東京商工リサーチの調査によると、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は122件で過去2番目に多くなっています。
また、倒産以外でも事業を停止した介護事業者の休業、廃業、解散の件数は過去最多の510件を記録し、需要が高いにも係わらず経営状況の厳しさを感じる結果となっています。
画像:2023年「老人福祉・介護事業」の倒産、休廃業・解散調査(東京商工リサーチ調べ)
倒産の原因は「販売不振(売り上げ不振)が最多」
倒産(122件)の原因としては「大手事業者との競合」「人手不足」を発端とした利用者の減少による「販売不振(売り上げ不振)」が92件と最多、次いで「他社倒産の余波(38件)」、代表者の死亡などの「その他(3件)」となっています。
大手事業者との競合
大手事業者との競合の影響についてみていきましょう。
障害者グループホーム事業では営利法人の参入が相次いでおり、直近5年間で見ると、下図の通り伸び幅が大きくなっています。
営利法人を含めた新規事業者の参入は、施設感における利用者の獲得競争が起きるだけではなく、職員確保の面でも影響を与えています。
画像:令和5年4月国保連データ‗共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)P.29
これから新規で開業を検討する場合には、以下3点の把握が必要です。
①地域のニーズ、需給バランスの正確な把握
②競合他社の進出状況の把握
③収益が見込める地域かどうかの分析
人手不足
障害者グループホームを運営するためには、管理者、サービス管理責任者、生活支援員、世話人が必要です。
障害者グループホームでは、利用者数に応じた人員の配置が法律で定められています。違反した場合「介護報酬の減算」「指定停止」など行政処分の対象になるため注意が必要です。
特に施設の中心的な存在であるサービス管理責任者については、資格を取得するための要件が厳しいこともあり、確保が難しくなっています。
人手不足に陥らないための取り組みとして、以下2点を意識する必要があります。
①人員を確保する体制を構築する
②職員の定着率を上げる
障害者グループホーム経営で失敗しないポイント
障害者グループホーム経営の課題を踏まえ、障害者グループホームを安定して運営するためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。5つに分けてご紹介します。
地域のニーズ、需給バランスの正確な把握
開業を予定している地域のニーズを把握し、需給バランスに合った計画を立てましょう。また、物件の相場価格・人件費などを踏まえ、収益が見込める地域を選定する必要があります。
競合他社の進出状況の把握
競合他社のサービス内容、定員数、入居率などの情報を確認することにより、地域の需要を把握することができます。サービスの供給過多になる地域では開業を控えた方が無難でしょう。
収益が見込める地域かどうかの分析
収入面については、地域により介護報酬の「単価」が設定されている点に注意が必要です。収支バランスを考え慎重に選定していきましょう。
尚、介護報酬の入金はサービスを提供した月の2か月後です。(5月の売上が7月15日〜20日頃に入金されるイメージ)。
人件費、地代、家賃など毎月の経費は当月や翌月に支払うため、開業前にキャッシュフローを考えた資金繰りの検討は必須です。
人員を確保する体制を構築する
良質なサービスを提供するためには、グループホームのビジョンを理解し、適切な知識・経験のある人材の採用が必要です。
自社のHPやSNSでの募集、ハローワークや地域のコミュニティと連携しながら優秀な人材を確保できる体制を構築しましょう。
職員の定着率を上げる
人材確保が難しい中、就業中の職員の定着率を上げることもサービスの質を確保する上で大切です。
・待遇(処遇)改善→離職の防止
・計画的な研修(外部研修への参加、OJTなど)の実施→スキルアップ、業務範囲の拡大
・定期的な面談、フォローアップ→職員の安心感、満足度アップ
2024年4月の介護報酬改定により、職員の処遇改善に向けた国の取り組みも行われています。処遇改善加算を利用し、優秀な人材の定着率を上げていきましょう。
まとめ
障害者グループホーム経営を行うための経営上の課題と解決策について説明しました。
サービスの供給量については地域差があるものの、障害者グループホームの件数には需給ギャップがあり、新規参入のチャンスがある分野です。
一方で、営利法人を含めた新規参入が増えたことにより、優良な物件・人材の確保が難しくなってきています。
新規開業後に安定した経営を行うためには、開業前のリサーチ(市場、競合他社、物件、介護報酬の単価など)の徹底、余裕ある人材確保のための対策など、十分な事前準備を行っていきましょう。
最後に、2024年4月1日からは「居宅における自立した日常生活への移行」に関する相談援助も障害者グループホームの業務に追加になっています。
このような新しいサービスを積極的に取り入れることも、競合他社との差別化につながるかもしれません。是非、ご検討いただければと思います。