政府が進める「病院から在宅医療、在宅介護への推進 」の指針により、年々、訪問介護サービスへの期待、必要性が増してきています。
介護施設を立ち上げる際「介護報酬」の仕組みや計算方法の理解は欠かせず、経営者は安定した事業運営のために正確な把握が求められます。
今回は、重度訪問介護事業所の収入源となる「介護報酬」の仕組み、計算方法について具体的な事例を示し、分かりやすく解説します。
重度訪問介護事業の主な収入源である「介護報酬」について理解を深めていきましょう。
重度訪問介護とは?
重度訪問介護とは重度の肢体不自由、または重度の知的障害、精神障害があり常時介護が必要とする方に対して、生活全般において介護サービスを提供する障害福祉サービスです。
対象者
重度訪問介護は、以下の条件に該当する方が対象となります。
「重度の肢体不自由、または重度の知的障害もしくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要する方。障害支援区分が区分4以上、かつ、次の(1)、(2)のいずれかに該当する方」
※障害支援区分については、下図を参照。
出典:障害者総合支援法における「障害支援区分」の概要 P.1
(1)次の①②のいずれにも該当する
①二肢以上に麻痺などがある
②障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されている
(2)障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目など(12項目)の合計点数が10点以上である。※例外規定あり。例外規定の条件は、下記参考の資料をご参照ください。
サービス内容
サービス内容は「身体介護」「家事援助」「移動介護」「その他」の4種類です。
身体介護
・入浴、排泄、食事、着替えの介助など
家事援助
・調理、洗濯、掃除、生活必需品の買い物など
移動介護
・外出時における移動の支援、介護
その他
・生活などに関する相談、助言、見守り
主な人員配置
利用者へ適切な介護サービスを提供するため、サービスの種類ごとに配置が必要な人員が決められています。重度訪問介護事業を行う際に必要な職員の例をご紹介します。
サービス提供責任者(常勤ヘルパーのうち1名以上)
・介護福祉士、実務者研修修了者など
※「居宅介護職員初任者研修修了者であって、3年以上の実務経験がある者」をサービス提供責任者とする暫定措置が設けられていましたが、質の向上を図る観点から廃止されています。
ヘルパー(常勤換算2.5名以上)
・居宅介護に従事可能な者、重度訪問介護従事者養成研修修了者
※「常勤換算」の詳しい説明は「介護施設の人員配置基準「常勤換算」の計算方法を詳しく解説!」を参照。
介護報酬とは?
介護報酬とは事業者が利用者(要介護者または要支援者)に介護サービスを提供した際に、その対価として事業者に支払われる「サービス費用」のことを指します。
介護報酬は3年ごとに改定
介護報酬は人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、3年に一度改定が行われています。
2024年度(令和6年度)は医療報酬の改定も同時に行われており、訪問「看護」など医療サービスを提供している事業所では、報酬改定による事業への影響が懸念されています。
参考:令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(厚生労働省)
介護報酬の仕組みについて
介護報酬は各サービスごとに設定されており、基本的なサービス提供に係る費用(基本報酬)に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況に応じて加算・減算される仕組みとなっています。
介護報酬の基本的な構造のイメージは、下図をご確認ください。
介護報酬の財源は?
介護報酬の財源構成は、保険料から50%(第1号保険料、第2号保険料)、公費から50%(国、都道府県、市町村)となっています。それぞれの負担割合は以下の通りです。
介護報酬支払の流れ
介護報酬が支払われる流れを見ていきましょう。
上記の図【介護報酬支払いの流れ】を参考に、サービス事業者側の視点で「③サービス提供」から順番に確認します。
【支払いの流れ】
③サービスの提供
④利用者負担(原則として介護報酬の1割分)分の利用料を受領。
※利用者の所得額により、2割〜3割負担のケースもあり。
⑤保険者(市町村)へ介護給付費などの請求。
⑥保険者(市町村)から介護給付費を受領(原則として介護報酬の9割分)。
※利用者の所得額により、8割〜7割給付のケースもあり。
※実際は国民健康保険団体連合会(国保連)を介して、市町村から受領。
尚、介護給付と利用者負担の割合については、以下の図をご参照ください。
介護報酬の算定構造について
介護報酬の算定構造について、ご説明します。
まず、ベースとなる「基本報酬」があり、利用者へ一定の基準を超える充実したサービスを提供できている場合に「基本報酬」への上乗せで「加算」がされます。
一方で、職員配置基準が守れていない(職員が不足している)ような場合には「基本報酬」から一定割合の「減算」が行われる、とお考えください。
出典(再掲載):介護保険制度の概要(厚生労働省)
3つの基準(基本報酬、加算、減算)
前述の通り、介護報酬は「基本報酬」「加算」「減算」の3つで構成されています。それぞれの特徴についてご説明していきます。
基本報酬
基本報酬は各サービスの報酬の基礎となるものです。提供するサービスの内容、サービスの提供時間、利用者の要介護度に応じて単位数が定められています。※単位数については、後述します。
加算
加算とは人員配置やサービス提供に対する上乗せの報酬です。要件を充たすことで基本報酬に加えて算定できます。専門的な知識や経験をもつ職員が必要なケースもあります。具体的な例を3つご紹介します。
・移動介護加算
・行動障害支援連携加算
・入院時支援連携加算(2024年度より見直し)
減算
減算は、事業所が指定基準を充たさない状態で運営をしているような場合に、基本報酬が減額される仕組みです。具体的な例を3つご紹介します。
・人員の配置基準に対して、職員数が不足している
・虐待防止措置が未実施(2024年度より見直し)
・情報公開が未報告(2024年度より見直し)
出典:障害福祉サービス費等の報酬算定構造(厚生労働省)P.3より一部抜粋
介護報酬の計算方法は?
介護報酬の額は、「単位」×「単価」で計算されます。
※「単位」は基本報酬に加算、減算を加味したもの。
※1単価=10円が基本。
(例)重度訪問看護を1時間未満提供した場合(単価は「10円」で計算)。
「186単位(1時間未満)」×「10円」=1,860円が事業所に支払われます。
(利用者負担が1割の場合、利用者が「186円(1割)」、市町村から「1,674円(9割)」支払う)
介護報酬に使われる単位とは?
介護報酬は金額ではなく「単位数」で定められています。診療報酬と同様の考え方です。
重度訪問看護サービス費の場合の単位数は「186単位(1時間未満)〜3,520単位(20時間以上24時間未満)」となっています。尚「単位数」は全国で一律に設定されています。
介護報酬に使われる単価とは?
事業所が実際に受け取る報酬額は前述した「単位数」に地域ごとの「単価」を掛けて算定します。物価や人件費などの地域による格差を発生させないよう配慮した仕組みです。
「単価」は全国で「8区分」に分かれています。地域ごとに「10円〜11.40円」の間で設定されており、報酬改定のタイミングで3年に一度、見直しが行われています。
出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について(厚生労働省)P.160
具体例
具体的な介護報酬額を算定してみましょう。「岐阜県岐阜市」「大阪府堺市」「東京都特別区」で利用者1名が重度訪問介護サービスを8時間利用したケースで試算しています。
基本報酬の単位数は全国一律ですが、単価は事業所の所在地ごとに違いがあるため、介護報酬額に違いがあることが確認できます。
【ケース①】
■事業所の情報(岐阜県岐阜市/重度訪問介護)
・基本報酬の単位数:利用者1人につき、1日当たり1,505単位(8時間で想定)
・地域区分:6級地(岐阜県岐阜市)
・1単位あたりの単価:10.27円
・人件費割合:45%
「1,505単位」×「10.27円」=15,456円
【ケース②】
■事業所の情報(大阪府/重度訪問介護)
・基本報酬の単位数:利用者1人につき、1日当たり1,505単位(8時間で想定)
・地域区分:5級地(大阪府堺市)
・1単位あたりの単価:10.45円
・人件費割合:45%
「1,505単位」×「10.45円」=15,727円
【ケース③】
■事業所の情報(東京都/重度訪問介護)
・基本報酬の単位数:利用者1人につき、1日当たり1,505単位(8時間で想定)
・地域区分:1級地(東京都特別区)
・1単位あたりの単価:10.90円
・人件費割合:45%
「1,505単位」×「10.90円」=16,404円
まとめ
今回は重度訪問介護事業所の収入源となる「介護報酬」の仕組み、計算方法について解説をしました。
介護保険制度における介護報酬の財源(公費50%、保険料50%)、介護報酬の支払いの流れ(国民健康保険団体連合会(国保連)を介して、市町村から受領)を押さえておきましょう。
介護事業所を開業し、安定した経営をする上で介護報酬は重要な要素になります。「基本報酬」「加算」「減算」の仕組み、介護報酬の計算方法を正確に理解し、売り上げ計画を策定する際の参考にしていただければ幸いです。
タカオでは、介護福祉施設や障害福祉施設全ての工程で様々なサポートをさせていただきます。
まずは、お気軽にご相談ください。