宅地を購入して福祉施設を建てるには土地の購入費用が高くなってしまいますので、農地を転用してから購入するケースが多いです。
しかし安易な転用が進むと食料自給率の低下や環境破壊につながるおそれがあるために規制も厳しく、農地転用は許可が得にくいという現状があります。
そのため福祉施設の建設を検討している人は、農地転用の許可がおりやすいようにする工夫と、おりなかった場合の対策をしておくことが大切です。
この記事では農地転用をして福祉施設を建てる人向けに、許可がおりない理由とおりない場合の対策について解説します。
農地転用の課題とその解決策
農地法第一条では「農地を農地以外のものにすることを規制する」という文言が含まれていることから原則、農地を他の用途に利用することはできず、農地転用が難しい大きな理由となっています。
しかし高齢化社会の影響を受け福祉施設の需要は増加傾向にあり、さらに休耕地を放置しておくことも問題です。
このことからも、農地転用と福祉施設の関係を理解したうえで申請することで、農地転用の許可は得やすくなります。
【参考サイト:農地法 | e-Gov 法令検索】
なぜ農地転用許可がおりないのか?
農地転用の許可がおりない理由の一つに農作物の生産量低下があり、農地の減少について歯止めをかける必要性があります。
また、農地を造成してコンクリート舗装工事を行い、生活排水を農業集落排水に排出してしまうと環境が変化してしまい、現存の田畑に悪影響を及ぼす可能性もあります。
こうした農地の保護は特に「農業振興地域」や「甲種農地」「第一種農地」と呼ばれるエリアで厳しくなっており、福祉施設の建設予定地を探す際には注意が必要です。
【参考サイト:農業農村整備事業における環境との調和への配慮:農林水産省】
農地転用と福祉施設設立の関係
農地を宅地に地目変更して住宅を建てたり雑種地にして駐車場にするケースでは農地転用の許可はおりにくいですが、福祉施設であれば許可がおりることもあります。
なぜなら福祉施設は高齢化が進む地域にとって需要が多く、多機能ホームや特別養護老人ホームといった施設は老後も安心して生活ができる地域社会を形成するためにも必要だからです。
つまり、近隣住民や自治体を協議し地域にとって価値ある施設だと認められれば農地転用はおりやすくなるといえます。
福祉施設を活用した解決策
新しく福祉施設を建てるのではなく、既存の福祉施設を利用する方法もおすすめです。
この方法であれば農地転用することもなく、スムーズに福祉ビジネスをスタートすることができます。
これ以外にも農地が「市街化区域」にある場合は農地転用は「許可」ではなく「届出」となり、雑種地だけでなく宅地にも変更できるため福祉施設以外にも活用できます。
農地転用なしで福祉施設を設立する方法
農地転用するためには農地の確定測量や申請手続きなどが必要になり、半年以上かかるケースも少なくありません。
また、時間をかけたにも関わらず許可がおりないこともありますので、農地転用せずに福祉施設を設立する方法を知っておくべきです。
既存の建物を活用した、福祉施設の設立方法
既に建設されている福祉施設を活用する方法であれば農地転用の必要がなく、おすすめです。
福祉ビジネスは人手不足や報酬改定によって経営難になり、施設ごと手放すケースも少なくありません。
このような使われなくなった施設をリフォームして活用することで、農地転用に悩まされることなく福祉ビジネスをスタートできるようになります。
農地転用以外の土地利用方法と、その選択肢
都市計画法で定められたエリアの土地は「市街化区域」と「市街化調整区域」「非線引き区域」に分けられており、市街化区域であれば農業委員会に届出するだけで農地転用できます。
そのため福祉施設だけでなく住宅地や駐車場として有効活用する人も多いです。
福祉施設設立に必要な法的手続きと準備
福祉施設の設立には、大きく分けて「福祉事業の指定・認可」と「建築許可」が必要です。
福祉施設を運営するためには、社会福祉法人だけでなく、株式会社やNPO法人などの形態でも可能ですが、提供するサービスに応じて自治体に指定申請を行い、認可を受ける必要があります。
また、福祉施設の建設には建築基準法や都市計画法、消防法などの基準を満たす必要があり、市街化調整区域では建築許可が得にくい場合があるので注意が必要です。
認可がおりると建築業者経由で建築確認申請を提出し、建築後に検査済証を取得して完了です。
このように福祉施設を設置するためには様々な準備が必要となりますので、開業するタイミングから逆算して準備を始めることをおすすめします。
農地転用の規定と条例:福祉施設設立のポイント
福祉施設の設立には地域によって規定や注意点、対応方法が異なります。
この章で詳しく解説しますので、参考にしてください。
地域ごとに異なる農地転用の規定について
農業振興地域や甲種農地では農地転用の審査が厳しくなり、協議内容や造成計画に大きく影響します。
他にも都市計画法による規制、都道府県・市町村の独自条例、自治体の農業振興施策による制約、自然環境保護・防災関連の規制も影響ある可能性があります。
福祉施設設立に必要な手続きと注意点
福祉施設は自治体からの認可があれば設立可能ですが、施設を円滑に運用するためには地域住民の意見も取り入れなければなりません。
たとえば地域の祭りがある時に駐車場を開放したり、近隣住民が優先して入居できるよう配慮することで自治体の許可を得やすくなります。
地域ごとの条例に合わせた対応法
農地転用は農地法だけでなく地域独自の条例に沿った手続きが必要となりますが、専門性が高く自分で調べきれないケースも多いです。
そのため農地転用を検討する際には地域の行政書士に相談し、自治体との手続きを委託するのがポイントです。
ただし施設管理者が自ら出向いて近隣住民に施設の内容が義務付けられている地域もあります。
例えば、西宮市開発事業等におけるまちづくりに関する条例では、開発事業や中高層建築物の建築を行う際、事業主は周辺住民に対して事業計画や工事計画、管理計画について説明および協議を行うことが義務付けられています。
あらかじめルールを確認し準備することが大切です。
福祉施設設立に役立つ!助成金と支援制度
福祉施設を建築するためには一般住宅よりも高額の資金を用意しなければならないため、資金調達の仕方も知っておく必要があります。
多くの自治体では福祉施設の設立に対して補助金や助成金の制度が公開されていますので、検討しているエリアで利用できる制度をあらかじめ調べておくことも大切です。
この章では福祉施設の設立に活用できる制度の種類と利用方法について、解説します。
福祉施設に利用できる助成金の種類
たとえば東京都では「介護施設等の施設開設準備経費等支援事業」という制度が公開されており、施設によって989,000円から16,600,000円までの助成金を受けることができます。
こうした助成金は適用条件があるうえに予算が設定されており、予算が上限に達してしまうと制度自体がなくなってしまいます。
そのため常に最新の状態を自治体のHPでチェックしておくことをおすすめします。
これ以外にも「特別養護老人ホーム等施設整備費補助制度」では該当する施設の建築に対し、工事費の2.6%を補助金として利用することができます。
使える支援制度を知っておこう
補助金や助成金制度以外にも、福祉施設を建築した場合は固定資産税や金利の優遇を受けられるためランニングコストを抑えることができ、さらに地域によっては「雇用促進」や「人材派遣」「運営サポート」などのプログラムもあります。
支援制度の数は多く管轄の自治体が異なるケースも多いため、利用漏れがないよう自治体に問合せすることが重要です。
助成金申請をスムーズに進めるためのポイント
自治体に申請書を提出し、審査を通れば交付を受けることができます。
申請書と必要書類に不備があったり内容に虚偽があると審査を通過できないため、入念にチェックしてから提出することをおすすめします。
なお、補助金の交付は工事後のケースも多いため、交付タイミングには注意が必要です。
農地転用許可を取得しやすくする方法
農地転用の申請は一度否決されてしまうと同じ土地で受理されることは難しくなるため、入念に準備することが大事です。
この章では農地転用の許可がおりやすくなるためのポイントを解説します。
農地転用許可を成功させるためのステップ
農地転用の申請を行う農業委員会は、申請内容に問題がなく農地転用の必要性があれば農地転用が妥当と判断します。
福祉施設の概要と検討しているエリアが決まった段階で農業委員会や農協、町内会、近隣住民にも説明を行い、理解を得ることも大切です。
地域との情報共有をしたうえで必要書類をそろえ、申請する必要があります。
農地転用と福祉施設をうまく組み合わせる方法
福祉施設の建設によって休耕地は有効活用され、例えば雑草が生い茂ることによる害虫の発生を防ぐこともできます。施設周辺の清掃活動にも力を入れれば、これまで以上に周辺地域の景観を保つこともできます。
このようなメリットと環境に悪影響が出ない対策を地域住民に伝え、賛同を得ることもポイントです。
地元自治体との協力と、事前調整の重要性
自治体としても福祉施設が設立されることで住民のシニアライフに選択肢が生まれるため、プラスになる要素も多いです。
その一方で田畑が福祉施設となることを住み慣れた土地に新しい建物が立つことに抵抗感を覚える人もいるため、自治体と何度も協議を重ねて計画を進めていく必要があります。
プロのアドバイスで、確実に押さえるべきポイント
福祉施設の設立を見据えた農地転用は地域によっては許可がおりないことも多いですが、その理由として農地はそもそも農地法によって農地以外で活用することが制限されているという点があります。
そのため農地と別の用途で利用するために農地転用するためには相応の理由が必要となり、正しく農業委員会や自治体に伝えることが大切です。
しかし農地転用の協議は専門性が高く、施設管理者だけではうまく進められないことも多いです。
そこで農業委員会や行政書士などのプロに事前相談を行い、農地転用の許可がおりやすくするための工夫が大切だといえます。