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農地活用と新しい挑戦:社会福祉施設の収益化方法

農地活用と新しい挑戦:社会福祉施設の収益化方法

近年、農業分野と福祉分野が連携した「農福連携」の取り組みが全国各地で行われています。高齢化や後継者不足による農業従事者数の減少、それに伴う離農数や耕作放棄地増加の対策として注目を集める「農福連携」。その実態と取り組みを行う際のポイントについて解説します。

農業と社会福祉施設の融合とは?

農業従事者数は2005年の「約224万人」から2020年には「約136万人」と大幅に減少(39%減少)し、農業の担い手不足が課題と言われています。

出典:(1)基幹的農業従事者(農林水産省)
また、2020年の農業従事者「約136万人」のうち、65歳以上の年齢層が「約94万人」となっており全体の70%を占めています。同年の農業者の平均年齢は67.8歳という現状からも若年層の新規就農者の増加が求められていることが分かります。

出典:(1)基幹的農業従事者(農林水産省)
このような背景から農業の担い手を増やす取り組みの一つとして、高齢者や障害者が入所、利用する社会福祉施設と農家が連携する取り組みに注目が集まり、近年は徐々に増加傾向が見られます。
では、どのような点で連携のメリットがあるのでしょうか?社会福祉施設側から見たメリットについて見ていきましょう。

農業が社会福祉施設に与える恩恵

農福連携に取り組む障害福祉サービス事業所のアンケート調査結果によると、農作業に従事したことにより入所者、利用者に以下のような効果がみられています。
【肉体面・健康面】
・(利用者に)体力が付き、長い時間働けるようになった
・よく眠れるようになった
・体調を崩しにくくなった

出典:農福連携に関するアンケート調査結果(一般社団法人日本基金)P.14

【精神面・情緒面】
・物事に取り組む意欲が高まった
・表情が明るくなった
・成功体験を通じて自信が高まった

出典:農福連携に関するアンケート調査結果(一般社団法人日本基金)P.14

他には「生活のリズムが改善した」「コミュニケーション力が高まった」「挨拶ができるようになった」など生活面や仕事へ取り組む姿勢への変化を挙げる事業所も4割以上ありました。

社会福祉施設で農業を取り入れる理由とは?

それでは、施設管理者側から見たメリットにはどのようなものがあるでしょうか。具体例を見ていきましょう。

・リハビリテーション効果:農作業の具体的内容をみると田畑、果樹園、牧草地などでの作業が約8割を占め、体力を要する作業が多いことが特徴です。そのため、施設側が担当するリハビリテーションや身体機能の維持などへの効果が期待できます。
・コミュニケーション力の向上とチームワークの促進:農作業を通じて利用者同士のコミュニケーションが増えることにより人間関係が育まれ、チームワークの促進に繋がります。結果として施設内の人間関係作りに良い影響が生まれています。
また、農業指導を担当する農家の方など施設外の方とのコミュニケーションを通し、地域の中で生活をしているという意識が身に付くきっかけにもなります。
・新鮮な食事の提供:自分たちが育てた農作物を食材として提供することによって、利用者の満足度の向上が期待されます。


出典:農福連携に関するアンケート調査結果(一般社団法人日本基金)P.10

農業と社会福祉施設が相乗効果を生む理由

農作業は利用者の心身へ良い影響がある以外にも様々な効果があります。一つは「就業先の確保」、もう一つは「平均賃金の増加」です。一つずつ見ていきましょう。
・就業先の確保:年々増加している障害者への就労先の確保は、社会的な課題の一つになっています。雇用施策の対象となっている約480万人の障害者のうち雇用(就労)しているのは約114万人(割合としては約23%)となっており、就業先が不足している状況です。そのような中、農業従事者数の減少、荒廃農地の対策を解決するための一手を担うことにもなり、双方にとってメリットのある取り組みと言えます。

出典:農福連携をめぐる情勢(農林水産省)P.1

・平均賃金の増加:農作業による収入により、利用者へ支払う平均賃金(「平均工賃」といいます)が増加しています。「農福連携におけるアンケート調査結果」によると、過去5年間の平均工賃が「増加」したと回答した障害者サービス事業所の割合が約6割(58.4%)と半数を超える結果が出ています。

出典:農福連携に関するアンケート調査結果(一般社団法人日本基金)P.16

例えば、障害者就労継続支援B型事業所である「社会福祉法人ゆずりは会菜の花(群馬県前橋市)」では平均工賃が県平均の約4倍(7万6,221円)になったという好事例も生まれています。

※群馬県の障害者就労継続支援B型事業所の平均工賃は「1万8,328円(令和5年)」

出典:農福連携をめぐる情勢(農林水産省)P.1
参考:社会福祉法人ゆずりは会菜の花(群馬県前橋市)ホームページ
参考:令和5年度における工賃実績調査結果について(群馬県障害政策課)

社会福祉施設で行われる農業活動の具体例

先に述べた通り、農福連携の就業場所は田畑、果樹園、牧草地などが約8割を占めていますが具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか。具体例をご紹介します。

園芸療法としての農業活動

「園芸療法」は、植物を育てることによって心身の健康や生活の質の向上を促進する療法のことです。日本園芸療法学会では以下のように定義しています。
“医療や福祉分野をはじめ、多様な領域で支援を必要とする人たち(療法的かかわりを要する人々)の幸福を、園芸を通して支援する活動”

引用:園芸療法とは(日本園芸療法協会)

園芸療法は高齢者施設、障害者施設で導入されている例が多く、心のケアに効果を発揮する療法の一つです。施設内での園芸活動を通じて利用者が自らの手で植物を育てる楽しさや、植物の成長を見守ることで達成感を味わえることがメリットになります。
施設運営側からの視点でみると「他施設との差別化が図れる」「利用者同士の良好なコミュニティが形成される」「庭でのリハビリテーションが増えたことで、利用者の活動が活発になる」といった点がメリットです。

農作物を使った食事作り

自分たちで育てた農作物を利用者の食事に取り入れることにより、以下のようなメリットが生まれます。

・新鮮で栄養バランスの取れた食事が摂れる
新鮮な地元の農作物を使うことにより、栄養価が高い健康的な食事を摂ることができます。また、旬の食材を食卓に提供することで季節感を楽しむことができます。
・収穫体験で食事への関心が高まる
利用者が自分で育てた農作物を料理に使うことにより、食事に対する興味や感謝の気持ちが深まります。
・地域の特色を活かしたメニュー
地元の農作物を使うことで、その地域ならではのメニューが楽しめます。これらの取り組みにより、地域への愛着を育むことにも繋がります。

地元市場やイベントへの参加

生産した農作物をイベントなどで販売することにより、施設と地域社会を繋げることができます。こちらでは「株式会社JAぎふはっぴぃまるけ(岐阜県岐阜市)」の事例をご紹介します。

・地域とのつながりが深まる
「はっぴぃマルシェ」を開催し、生産した農産物・加工品の販売、加工品を使用した飲食物の提供を通じて地域交流を図っています。
・施設の収益向上と地域活性化
「まめなかな味噌」をJA直売所で販売し即完売。味噌事業の売り上げは500万円となるなど収益に貢献しています。また、令和2年度の平均賃金は年度当初の「月額10万円」から年度末には「月額11万5千円」に増額するなど、収益を利用者へ還元する仕組みが出来ています。

出典:農福連携 事例集(令和5年度版)農林水産省P.112
これらの取り組みを通じて施設と地域が共に成長し、活気あるコミュニティが形成されることが期待されます。

農地活用による地域社会への貢献

社会福祉施設が農業活動を行うことにより地域に新たな価値を提供し、持続可能な社会づくりに寄与する側面もあります。どのような貢献があるのかを見ていきましょう。

地元の食材供給源としての役割

社会福祉施設が農産物の生産活動を行い、地域の方に購入いただくことによって「地産地消」が促進されます。
「地元に新鮮な食材を供給」して、「地元経済の活性化に貢献」でき、「地産地消」という観点では「輸送にかかる二酸化炭素の排出量を減らす」「輸送に使うエネルギーや資源を減らす」効果があり、環境への負担の軽減にも影響があります。
このように地元の農業活動の一部を下支えすることによって、将来的な農業の持続可能性を高め、長期的な環境保護にもつながる活動にもなり得ます。

環境保護と持続可能性の推進

環境に優しい方法で農産物を生産することにより、地域で自然を守る意識を高め、他の施設との差別化を図る取り組みもあります。これらの取り組みには専門的な知識・経験が必要なため、社会福祉施設が単独で行うものではなく「都道府県普及指導センター」「JA(農業協同組合)」「農業委員会」などのサポートが必要になります。

・オーガニック農業の導入
化学肥料や農薬を使用せず、自然由来の肥料や有機栽培法を取り入れることで、土壌や水質が保護され環境に優しい農業が実現できます。

・エコロジカルな栽培方法の採用
「輪作」(同じ土地で異なる種類の作物を順番に栽培する農法)を取り入れることで、土壌の健康を保ち、害虫や病気の発生を抑制することができます。また、複数の作物をつくることにより、作業者の作業ピークを分散できます。

出典:てん菜は北海道の輪作の要! (農林水産省)P.1

・地元資源の活用
地元の堆肥などを使用して農作業を行うことで、他所からの輸送による環境負荷を減らす。これらの取り組みを通じて、施設で行う農業が地域の環境意識を高めます。その結果、持続可能な社会づくりに繋がります。

農地活用で社会福祉施設の経営を強化

農福連携による社会福祉施設の経営面での影響はどのようなものがあるでしょうか。いくつか利点をご紹介します。

農地から得られる収益で経営を安定させる

農業活動を取り入れることで生まれる利点としては、以下のことが挙げられます。

・安定した収益源の確保
農業活動により定期的な収益を得ることができ、施設利用者への賃金に還元することができる。
・施設の知名度向上
農作物の販売を通じて施設の知名度が向上し、地域に広く認知される
・新たな利用者の呼び込み
農作物の販売がきっかけとなり、新しい利用者を施設に引き寄せる効果が期待できる

農業活動が施設の魅力をアップ

農業活動を行っている施設は、他の社会福祉施設に比べて独自性があります。利用者にとっては収穫体験を通し成長できることが魅力となり、施設にとっては地域社会とのつながりが深まることで地域密着のきっかけにもなります。

入居者やスタッフの満足度向上

農作物を育てる過程で、入居者や施設運営スタッフの満足度が向上します。

利用者→自分の手で成果を出す喜びを感じる
施設運営スタッフ→利用者とともに目標を達成する達成感を味わう

こうした経験が施設全体に前向きな雰囲気を作り出し、モチベーションアップにもつながります。

農地活用における課題と解決方法

農地活用には土地の管理や作物の選定などいくつもの注意が必要なことがあります。これらを解決するための方法を適宜確認し、適切なサポートを活用することにより安定した経営を実現していきましょう。

初期投資と運営コストのバランス

農作物の生産には初期投資はもちろん、毎年の運営コストが掛かります。開始前に慎重に収支のシミュレーションをすることが重要になりますが、まずは小規模で試験的に始めて徐々に規模を拡大していくと良いでしょう。

資金調達と投資回収の戦略

施設の規模や計画に応じて、適切な資金調達方法を選びましょう。例えば農福連携のための生産施設の整備については「農山漁村振興交付金」の利用を検討することができます。
農林水産省は、農山漁村振興交付金(農山漁村発イノベーション対策)のうち農山漁村発イノベーション推進事業・整備事業(農福連携型)という支援制度を設けており、農福連携を実施する場となる生産施設の整備にかかる経費を 1/2 以内で助成しています。
具体的には、ハウス等の生産施設、加工販売施設のほか、障害者が農業生産活動に従事する際に必要となる休憩所、トイレ等の整備に活用できます。
出典:はじめよう!農福連携-スタートアップマニュアル-(文部科学省、厚生労働省、農林水産省)P.19
参考:農山漁村振興交付金(農林水産省)

収益化を目指した農業活動選び

生産物の内容によって、得られる収益のタイミングなどに違いがあります。利用者の特性に合わせて生産物を選び、合わせて収益化を目指していきましょう。

野菜や果物の栽培→短期間で収穫できるため、早期の収益化が可能。管理や収穫作業には手間がかかる。
花や観葉植物の栽培→管理が比較的簡単で、安定した収益を見込める。
農作物を加工して「乾燥野菜」や「ジャム」を作り、付加価値をつけると単価をアップすることもできる。

まとめ

農業分野と福祉分野が連携した「農福連携」の取り組みについて実例を交えてご紹介させていただきました。高齢化や後継者不足による農業従事者数の減少、それに伴う離農数や耕作放棄地増加の対策として注目を集める「農福連携」。
障害者や高齢者にとっても働く場所が提供され、平均工賃の高い仕事に携わることで成長や満足度を得られるメリットがあります。農福連携を始めるためには市町村の農業員会やJAなど関係機関の協力を得ながら一つずつ進めていくことが大切です。
専門家の意見を参考にしながら、よりよい土地活用を検討していきましょう。

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